従業員が退職する際、企業が行う手続きには様々なものがあります。手続きには期限が決まっているものもあり、対応の遅延や失念があると退職した従業員に迷惑がかかることにもなります。抜け漏れがないよう迅速かつ適切な対応が求められます。 Show 目次
退職日が決まった後、人事総務担当者がやるべき手続きの流れ原則「退職」は、本人の意思表示から2週間で効力を生じることになります(民法第627条第1項)。 事前に退職希望者がいることを確認できれば、早めに準備を進めることも可能です。各部門の管理者とは、退職希望者が出た場合の対処について予め共有しておくとよいでしょう。 従業員から退職の申出があった場合、その後の対応は以下のように行います。 具体的な退職日が決まったら、退職希望者に退職(願)届を提出してもらいます。提出先は直属の上司か総務・人事課などが一般的ですが、自社のルールに従い回収します。 退職(願)届を受理したら、一身上の都合(いわゆる自己都合退職)なのか、会社都合退職(いわゆる解雇等)なのか、離職理由を確認しておきましょう。会社都合退職の場合、解雇予告手当が発生するケースがあります。円満に退職手続きを行うためにも忘れずに確認しておきましょう。 その後、退職者に対して退職日までに必要な対応の説明を行います。 退職後すぐに再就職が決まっている場合は、転職先で健康保険に加入することになるので問題ありませんが、「退職後から転職活動をする」あるいは「少し休むなど就業までのブランクが発生する」などの場合、従業員とその家族は国民健康保険に加入するか、現在の保険を任意継続にするか、家族の健康保険に被扶養者として加入するかを判断しなければなりません。 <退職までの対応> 退職時に渡すもの・回収するもの・提出してもらうもの退職が決まった従業員に退職手続きの流れを説明する際、「退職時に渡すもの」「退職当日までに回収するもの」「退職日までに提出してもらうもの」を説明します。リストにして共有しておくと、抜け漏れもなく進められますので便利です。 ■退職時に渡すもの●年金手帳年金手帳は、国民年金の種別変更をする際にも必要な重要書類にあたります。転職先でも同じ物を使用しますので、必ず本人に返却しましょう。 ●雇用保険被保険者証雇用保険加入時に原則本人に交付するものとなっていますが、企業側で保管するケースも多く見られます。雇用保険給付の手続きで必要になりますので、企業側で保管している場合は忘れずに返却しましょう。雇用保険被保険者証を本人に渡している場合は、紛失していないか確認しておくと親切です。 ●退職証明書労働基準法第22条1項により、退職者が退職証明書を請求した場合、企業は必ず発行しなければなりません。退職者の請求を拒否したり理由なく遅延したりすることは、労働基準法違反として30万円以下の罰則に処されますので、誠意ある対応を心がけましょう。 その他、離職票など退職日以降に行う手続きで発生する書類もあります。それらは手続き終了後に渡すことも伝えておき、受け渡し方法を取り決めておきましょう。 ■退職までに回収するもの●健康保険証本人はもちろん、被扶養者分の健康保険証も忘れずに回収しましょう。「高齢受給者証」や「健康保険特定疾病療養受給者証」「健康保険限度額適用・標準負担額認定証」などが交付されている場合も全て回収します。 ●貸与品パソコンや携帯といったIT機器、社員証などの身分証明書、名刺、社章、制服、事務用品、定期券など、会社から貸与している物品は全て回収対象になります。 ●作成・収集した各種資料やデータ調査報告書、企画書、図面など、業務上必要に迫らせて従業員が作成したものも、業務上の機密に当たることがありトラブルに発展しかねないため、返却対象として扱います。 ■退職日までに提出してもらうもの●退職所得の受給に関する申告書退職金が発生する場合には、「退職所得の受給に関する申告書」に必要事項を本人が記入し、記入後の用紙を預かる必要があります。退職金が支払われるまでに受け取ればいいのですが、その後の流れを考えても、退職日までに提出してもらうのが効率的でしょう。 <退職後の対応①> 雇用保険・社会保険・税金の手続き退職希望者が雇用保険や社会保険に加入している場合は、以下の手続きが必要になります。 ■雇用保険の手続き事業所を管轄するハローワークに、従業員の退職から10日以内に「 雇用保険被保険者資格喪失届」と「 雇用保険被保険者離職証明書」を提出します。「雇用保険被保険者離職証明書」は、退職前に記載内容について本人に異議がないかを確認してもらい、署名をした上で提出となります。 ■社会保険(健康保険、厚生年金保険)の手続き退職日の翌日から5日以内に、事業所の所在地を管轄する年金事務所へ、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を提出します。 ■住民税の手続き住民税を給与から天引きしていた場合(特別徴収)は、退職に伴い徴収方法の変更手続きが必要です。
<退職後の対応②> 退職後に渡すもの手続きの関係上、どうしても退職後に本人へ渡すことになる書類が発生します。転職先で求められたり、自身で行政手続きを行ったりするときに必要になるので、遅滞なく渡してあげましょう。 退職後に渡す書類には、以下の3種類があります。 ●離職票-1、-2「離職票」は、「雇用保険被保険者離職票」のことを指し、「離職票-1」は退職者に雇用保険の資格がなくなったことを通知する書類、「離職票-2」は退職前に本人が確認した「雇用保険被保険者離職証明書」の複写の1枚になります。 ●源泉徴収票(給与・賞与、退職金)給与・賞与、退職金は、所得税・住民税の課税対象となります。給与・賞与については最終支払い分までを、また退職金を支払う場合は別途源泉徴収を行います。そのため、源泉徴収票は2枚作成することになります。 ●健康保険被保険者資格喪失確認通知書「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を提出すると、「健康保険被保険者資格喪失確認通知書」が交付されます。 退職時の対応で注意しておきたい3つのポイント従業員の退職に伴う手続きは、従業員の新たな生活に影響するものも多いため、なるべく迅速い対応することが望まれます。また、退職に関する対応は、どの人に対しても同じ対応というわけにはいきません。以下のような場合は、該当者にしっかり説明し適切に対応する必要があるので注意しましょう。 ■退職者が財形貯蓄をしている場合財形貯蓄は、転職先で継続するか止めるかの意思によって指示が異なるため、本人に確認し、必要な対応を指示するようにしましょう。 ■退職者が社内融資を利用している場合社内融資は、住宅購入や資格取得などをバックアップするために社内に敷いている融資制度のことをいいます。ほとんどの会社では、返済残高が残っている場合、原則として退職と同時に一括返済する取り決めになっています。返済期間や返済残額を、本人にも確認し、残金の一括返済に向けて所定の手続きを行います。 ■外国人従業員が退職する場合退職する従業員が外国人の場合、就業規則で「退職の申し出は1カ月以上前」となっていても、そのような決まり事を理解していない可能性もあります。そのため、しっかりとした説明が必要になります。 退職後の従業員情報の取り扱いにも要注意!従業員情報は当然ながら個人情報も含まれるので、退職後の取り扱いにも注意が必要です。 退職者の情報は、個人別にファイル管理するのが適切です。複数の書類から該当者の情報だけを抜き取るのは大変手間がかかります。紙で従業員情報を管理している場合は、手続きが始まった段階から個人ファイルにまとめておくのがよいでしょう。データで情報を管理している場合は、エクセルなどに情報を抜き出して一括管理する方法や、システム上で管理できる方法があれば便利です。 また、退職後の従業員情報の保管については、労働基準法で以下のように定められています。 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければならない。(労働基準法第109条より) 他にも、労働安全衛生法、雇用保険法、労災保険法、厚生年金法、健康保険法、所得税法等により、以下のように書類ごとに保管期間が定められています。 【2年保管】 【3年保管】 【4年保管】 【5年保管】 【7年保管】 これらの書類には、マイナンバーが記載されているものも多くあります。マイナンバーが記載された書類は、できるだけ速やかに廃棄または削除しなければなりません。「退職の日」を起算日として、それぞれの法定保管期間を過ぎたら、できるだけ速やかに廃棄するようにしましょう。 電子申請できる手続きこそカンタンに!退職に必要な手続きや準備は、多岐にわたります。退職者の今後の生活にも影響するものが多いため、漏れなく、かつ迅速に対応する必要があります。 最近は、雇用保険や社会保険の手続きも電子申請が可能になっています。市場にも、電子申請まで対応するシステムやクラウドサービスが多く出回っているので、それらを活用するのも業務の効率化とスピードアップにつながります。 このようなシステムの力も借りて、円満に退職手続きを進める方法も検討してみてはいかがでしょうか。 従業員の退職に関するよくあるご質問退職日が決まった後、人事総務担当者がやるべき手続きの流れは? 従業員から退職の申出があった場合、その後の対応は以下のように行います。1.具体的な退職日が決まったら、退職希望者に退職(願)届を提出してもらう 2.離職理由を確認しておく 3.退職者に対して退職日までに必要な対応の説明を行う 記事では、各手続きについてより詳細に解説しています。従業員から出産報告を受けた時、育児休業に必要な手続きとは?退職希望者が雇用保険や社会保険に加入している場合、以下の保険や税金で手続きが必要になります。 1.雇用保険 2.社会保険(健康保険、厚生年金保険) 3.住民税 記事では、各手続きについてより詳細に解説しています。退職後、本人に渡す必要のある書類は?退職後に退職者本人に渡す書類には、以下の3種類があります。 1.離職票-1、2 2.源泉徴収票(給与・賞与、退職金) 3.健康保険被保険者資格喪失確認通知書 記事では、それぞれの書類についてより詳細に解説しています。 退職時の対応で注意すべきポイントは?以下のような場合は、該当者にしっかり説明し適切に対応する必要があります。 1.退職者が財形貯蓄をしている場合 2.退職者が社内融資を利用している場合 3.外国人従業員が退職する場合 記事では、それぞれの場合での対応について解説しています。 関連リンク
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転職先雇用保険の提出は?転職をする際、転職先の会社でもこの雇用保険は引き継がれるため、入社手続きで雇用保険被保険者証の提出が求められます。 雇用保険の加入手続きは労働者ではなく、就職した会社が行います。 そして、雇用保険被保険者証が発行されると、原則労働者に手渡されます。
雇用保険被保険者証の提出先は?その後新たに労働者を雇い入れた場合は、その都度、事業所を管轄するハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出しなければならないこととなっています。 この届出によってハローワークから交付された「雇用保険被保険者証」については事業主から本人に渡してください。
雇用保険被保険者喪失確認通知書 どこでもらえる?雇用保険被保険者資格喪失確認通知書を紛失した場合、ハローワークで所定の手続きを踏めば再発行してもらえます。 申請書類に記入のうえ、ハローワークに提出しましょう。 インターネットでの電子申請も可能です。
雇用保険被保険者資格喪失確認通知書 いつ使う?雇用保険被保険者資格喪失確認通知書は、離職票の交付無と記入して資格喪失届を届け出た後、離職票を交付する場合に必要となります。
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